偏見や先入観といったステレオタイプが行動や結果に与える影響

本の概要

原題は『Whistling-Vivaldi』

著者紹介

クロード・スティール氏は社会心理学者。米国科学アカデミー、米国教育アカデミー、アメリカ哲学協会、アメリカ芸術科学アカデミーのメンバー。

読んでみて

本書はステレオタイプ脅威についての研究がまとめられた本である。

ステレオタイプ脅威とは

ステレオタイプ脅威とは、『女性は数字に弱い』、『白人は黒人よりも運動能力が劣る』、『黒人は白人に比べて学力が低い』などの典型的なステレオタイプを感じられる環境において、それ自体がプレッシャーとなり、結果的にステレオタイプ通りになってしまうことをいう。

例えば、同じ学力の生徒を集めて2つのグループにわけ、片方のグループではテストを行う前に「学力を測るテスト」だと伝えると、黒人のほうが白人よりもスコアが低くなってしまうそうだ。
そして、別のグループで同じテストを行う前に、その目的が「問題を解くためのアプローチを調べる」など、学力を測るものではないことを事前に伝えると人種感でのスコアの差はなくなり同等になる。
つまり、日頃から『〇〇だと思われている』という認識を呼び起こされる環境下ではパフォーマンスが落ちてしまうということである。

ステレオタイプ脅威はアイデンティティと深く結びついている

ステレオタイプ脅威はマイノリティにだけ起きるものではなく、アイデンティティに深く結びついている。
例えば差別的な人間ではない白人であっても、黒人に対して差別主義者だと思われてしまうのではないかというプレッシャー自体が白人の行動を萎縮させてしまうことが起きる。
これは様々な環境において個々が持つアイデンティティとそれに紐付いたステレオタイプによって起きうるステレオタイプ脅威は異なるということである。

ステレオタイプ脅威を回避するために何ができるか?

ステレオタイプ脅威を回避するためにできることはないのだろうか。
一つの例としてフランスに移住したアメリカ人の黒人女性の例を上げている。
彼女はフランスに移住したことでアメリカにおける黒人女性としてのステレオタイプ脅威から開放されたそうだ。それは彼女のアメリカ人訛りのフランス語によってアメリカ人であることが認識され、ステレオタイプを持たれない環境に移ったためである。
一方でアメリカ人というアイデンティティを持たない、かつてのフランス領だったアフリカ諸国出身の黒人には偏見が残り、ステレオタイプ脅威下に置かれていることには変わりない。

つまり、自らのアイデンティティに対するステレオタイプの異なる環境に移ることは手っ取り早い回避法と言えるだろう。

この研究をどのように活かせるか

子育て中の人や、学業やスポーツなどの指導をしている人はこの本をおすすめしたい。
本書の内容を理解して、うまく活用することで、才能がありながら能力が十分に発揮できていない人達の障壁を取り除いてあげることができるかもしれない。

また日頃から「〇〇人だから〇〇だ」とか「女性だから〇〇」と決めつけてしまいがちの人にとっても視野を広げるきっかけになるだろう。

こんな人におすすめ!

  • 学術やスポーツなどにおいて人を育てる立場にある人
  • 差別や偏見などに関心の高い人