めざましく進化する近代サッカーの戦術を理解するための教科書

本の概要

セリエAコーチ、レナート・バルディとジャーナリストの片野 道郎が対話形式でモダンサッカーを読み解いていく本。近代サッカーでどんなことが起きているのかがわかる。

著者紹介

レナート・バルディはサンプドリア、ミラン、トリノなどの監督を歴任したシニシャ・ミハイロビッチのテクニカルスタッフとして、対戦相手の戦術分析、自チームのパフォーマンス分析を担っている現役のトップコーチ。プロ経験のない元税理士。
片野 道郎はイタリア在住のジャーナリスト・翻訳家。

読んでみて

現役時代はスペイン代表、バルセロナでもキャプテンとして活躍し、現役引退後は、バルセロナ(スペイン)、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)、マンチェスター・シティ(イングランド)を率い、素晴らしい成績を上げ続けている名将ペップ・グアルディオラ。
近代サッカーを新たなステージにあげたのはペップ・グアルディオラ率いるバルセロナであったし、彼の戦術を読み解くところから本書は始まる。

名将グアルディオラの基本戦術

彼の戦術を紐解いた時に全ての根底にあるのが、ボールを保持し、その周囲のエリアで優位性を作り出すことで『ゲームを支配する』という考え方である。そして、その時の優位性とは3つある。

  • 数的優位・・・特定のエリアで敵よりも多くの人数を配する
  • ポジショナルな(位置的)優位・・・敵との位置関係において戦略的に有効な場所、敵の守備を困難に陥れられる場所に人を配する
  • 質的優位・・・1対1などの数的均衡にあっても選手のクオリティにおいて相手を上回っていること

攻撃の目的はボールを動かすことではなく、敵を動かすことであり、いかにしてアタッキングサードまでボールを供給するかを追求している。

またボールロスト直後のネガティブトランジション(攻から守への切替時)には、全てのパスコースを消して、全力でボールを奪いに行くというげーゲーゲンプレッシングを行っている。

3つのプレー原則

  1. 5つの縦レーンの中には最大2人
  2. 4つの横ゾーン(敵の3ラインの間と前後)には最大3人
  3. 隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係を取る

リーグや選手が変わる中で、これらの考えをアップデートしていく過程も面白い。
カウンターの早いドイツやプレミア・リーグでのボールロスト時のリスクを低くするため、守備時にSBが中央に絞るという偽SBが生まれた経緯などがそれだ。

モダンサッカーの5つの戦術的キーワード

戦術パラダイムシフトが現れた欧州サッカーの最新トレンドとして5つの戦術的キーワードが紹介されている。

  1. 可変システム
  2. 5レーン理論
  3. 中盤空洞化
  4. パワーフットボール
  5. 進化形マンツーマン

可変システム

一試合を通して1つのシステムに固定するのではなく、攻撃時と守備時において明らかに異なるシステムを採用するチームが増えている。さらに、守備時においても、敵陣でのプレッシング時と、自陣での守備ブロックではシステムが異なることが多い。

5レーン理論

ピッチを縦に5分割して、攻撃時は全てのレーンを埋める。
中央と左右両サイドの中間にあたるハーフスペースは相手ディフェンスが4バックの場合、丁度CBとSBの中間に当たるため、そこに人やボールが入ると、どちらが寄せるのかが曖昧になり、判断が難しくなる。

中盤空洞化

自陣からのビルドアップと、敵中盤ラインの背後で5レーンを埋めようとすると、必然的に中盤が空洞化する。

パワーフットボール

90分高いインテンシティを保ちながら、フィジカル的な優位性を武器とする1対1のデュエルを重視し、攻守両局面で前に向かってプレーするアグレッシブなスタイル。

進化形マンツーマン

常に張り付いた従来のマンツーマンとは異なり、ゾーンディフェンスをベースとして、相手がボールを持った時に前を向いてプレーする時間とスペースを与えないようにプレッシャーをかけ、コントロール下に置くためのディフェンス。ボールの位置や見方との距離を保つことで守備陣系を維持するよりも、基準点となる相手をコントロールすることに優先順位を置く。

プレイヤーに求められるものも変わってきている

CB、SBのみならず、GKもビルドアップに加わるようになったため、足元の高い技術が求められるようになっている。
また、システムではなくポジショナルなプレーを行うには状況における判断力、認知力が必要不可欠となる。

上質な試合が観たくなる

読み終わったあとは明らかにサッカーを観る目が変わるだろうし、観たくなるだろう。

先日読んだ本でもパラダイムシフトがテーマだったけど、サッカーでも同様に大きな変化が起きている。IT革命とインフラの整備によってスポーツの世界でも情報の流通が容易になったことで、ものすごい進化を遂げているのだなと感じた。
損はしないので、サッカー好きには絶対に読んで欲しい本。

こんな人におすすめ!

  • 近代サッカーで何が起きているのか興味がある人
  • サッカーの戦術について理解を深めたい人
  • 現役のサッカーコーチや指導者