イギリスのおっさん達の日常を通してイギリスを知る

本の概要

EU離脱、競争激化社会、緊縮財政などの大問題に立ち上がり、人生という長い旅路を行く中高年への祝福に満ちたエッセイ21編。第2章は著者による、現代英国の世代、階級、酒事情ついての解説編。

著者紹介

ブレイディみかこ

ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。

著書

読んでみて

本書は、いわゆるベビーブーマー世代である著者の回りにいるおっさん達の人生を通して、イギリスの社会の変遷や現状を知ることができる本である。どこか憎めないおっさんたちの日常や困難から、ブレクジット(EU離脱)に至った要因や世代間闘争、緊縮財政による医療保険サービスの質の低下、それらがコミュニティに与える影響、移民排斥運動についての話が絶妙なバランスで描かれている。

巷には『マンガでわかる〇〇』みたいな本が溢れているが、本書は『おっさんでわかるイギリスの今』とも言える。複雑な物事がおっさんを通してすぅーっと入ってくる。おっさんとはこんなにも浸透率が高い存在だったのか。

舞台となるのはイギリス南東部のブライトン

著者のブレイディみかこさんは、96年から英国在住で、その冷静かつ楽観的な視点で音楽やファッション的な情報も織り交ぜてくる、いわゆるイケてるおばちゃん(最大限のリスペクト込み)で、登場するおっさんたちは、酒に溺れて離婚した過去があったり、失業していたり、年齢的に体にガタがきていたりして、さらに社会保障も怪しくなっていくという困難な状況もあり、書き手によってはいくらでも悲観的にも描けてしまう。しかし、そこは著者のいい意味でサバサバした人柄によるものか、これぞ諦観というものか、悲壮感が全くない。

自分はどちらかというとアメリカ文化の影響を強く受けたほうなので、イギリスといえばBeatles、Oasis、Queenを聞き、『パンク』、『モッズ』、『ロッカーズ』といったカルチャーに断片的に触れた程度で、渡航も一度だけ、ロンドン、マンチェスター、リバプールを回ったに過ぎない。つまり、限りなく表面的な印象しか持っておらず、本書のように生活社の視点から社会的な側面を知れるのはとても興味深い。

第2章では愛すべきおっさんたち抜きの、世代や階級、そして酒についてのデータを用いたより俯瞰的な英国の話が書かれている。ページ数こそ全体の5分の1 程度に満たないものの、内容はとても充実している。1章だけでも読み物としては面白いが、この章があることによって、何が著者の身の回りで起きていることで、何が英国全体をとりまく傾向なのか、というバランスが取れていて、木を見て森を見ずといった状態にならないようにとの著者や出版社の誠意を感じる。

1章はオムニバス映画のようなエッセイで、スキマ時間読書や併読にも相性がよく、2章は1章でイメージしたことが腑に落ちるような内容で、バランスよく英国に対する理解が深まる本だった。そして英国は移民の数こそ日本の比ではないくらい多いものの、同じ島国であり、かつて豊かだった国という点では日本と共通する部分も少なくない。

英国に興味のある方はもちろんのこと、比較文化論や日本のこれからについて考えるうえでも参考になる本なのでぜひ読んでもらいたい。自分も別の著書も読んでみようと思う。