無理はせず、必要なものを、必要な人に。少数精鋭IT企業の経営哲学

本の概要

世界中に散らばった少数精鋭の小さなソフトウェア会社である37 signalsの経営哲学。

原題は『REWORK』

著者紹介

著者のジェイソン・フリードデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンは『BaseCamp』というクラウド型のプロジェクト管理ソフトウェアをはじめとしたソフトウェア開発している37 Signalsという会社の創業者兼CEO、そして共同経営者である。
デンマークで仕事をしているデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンにいたっては、今や世界中のWebサービスで使われているプログラミングフレームワーク『Ruby on Rails』の開発者でもある。

読んでみて

先日、友人と話していて、「会社のあり方」や「仕事の進め方」の話になった時にこの本が話題に上がった。もう何年も前に読んだ本だが、良い本だという印象があったし、良い機会なので読み返してみることにした。

巷の常識を疑え

著者は世の中で正しいとされている常識に食ってかかる
会社は大きいほうがいいなんて嘘。ワーカーホリックなんてバカバカしい。大きな広告費を使う必要なんてない。計画を立てるな。

今すぐ、とにかくやってみろ

常識を疑ったうえでまずやってみることが重要だと説く。
なにをしたかが重要であって、アイデア自体には価値がない。
金がない、時間がない、コネがないは言い訳にしかすぎない。
ミニマルなものでいいから、とにかく始めよう。
これはリーン・スタートアップなどで出てくるMVP(最低限の機能を持った製品)の考えかたに近い。

スタートアップの幻想に振り回されるな

シリコン・バレーでよくある『スタートアップモデル』にも異を唱える。

多くのスタートアップはアイデアありきで投資家から資金を調達し、調達した資金で開発チームの給料など開発中のランニングコストをまかなう。最終的には上場、または売却というエグジット戦略ありきでサービスを作るのがよくあるパターンだ。
これらのスタートアップ企業の大半はアクテイブユーザー数やビジネスモデルの可能性を担保に、利益のないまま上場したり、既存のビジネスとのシナジーを生み出せるような企業に買収される。

創業者はうまくいけば大金を手にするが、その可能性は限りなく低い。
投資家の場合は10社に投資して1社でも大化けすれば回収できる。

資金調達をすることで不必要な制約を受けるよりも、最初から利益と経費を意識してビジネスを行うことを推奨している。

本当に必要なことにだけ取り組め

会社経営などビジネス世界ではしばしば『生産性』に注目することが多い。
どれだけの人間でどれだけの仕事を成し遂げるか。その価値観自体は誤ってはいないだろうが、働き方でもプロダクトでも不必要な部分は切り捨てるべきだという。

中でもプロダクトに関する考えかたは秀逸だ。

競合相手を打ち負かすには、なにごとも相手よりも「少なく」しかないのだ。簡単な問題を解決して、競合相手には危険で難しくて扱いにくい問題を残す。一つ上を行くかわりに、ひとつ下回るようにしてみよう。

技術や機能を盛り込むだけの競争の果てにあるのは、苦境に立たされている国産家電メーカーがいい例だろう。一度も使ったことのない機能が沢山盛り込まれた自信のプロダクトは、アップルなどの直感的にわかりやすい製品によって駆逐された。

人を雇う前に

人を雇う前になんでも自分でやってみることを推奨している。
なぜならば自分でやってみることで、どのような人を雇い、何を任せるのかが明確になるからである。

人を雇うのによいタイミングは、定められた期間内であなたの限界を超えた仕事があるときだ。もはや自信では手がつけられないものもある。品質の低下が目立ち始める。それが限界の時だ。

まとめ

少し前に紹介した『ハードシングス』も同じく企業経営の話だったが、そちらが株価や資金調達などで奔走しているのと比べると、全く異なる世界の出来事のようだ。
会社の規模感(この本が書かれた時点で16名)からしたら知名度も売上も並外れているので、上場することも十分可能だった筈だ。しかし、そうしないのは、著者にしてみたら、うまくいってるのにわざわざそんな苦労をする必要はない、ということになるのだろう。

お金を稼ぐことを否定せず、しっかり稼ぎつつも過度なストレスを抱えたり、寝る時間がないほど働くようなことはしない。
確固たる信念と事業哲学の詰まった良質なビジネスエッセイといっていいだろう。

こんな人におすすめ!

  • 個人や友人などとWebサービスなどを作成中の人
  • 小さな会社を始めたい人、始めている人