論客の対談を通して読み解く現代のプロパガンダ

本の概要

政治の戦場はいまや嘘と宣伝のなかにある——気鋭の近現代史家と社会学者によるまったく新しい安倍長期政権分析!

著者紹介

辻田 真佐憲 (つじた まさのり)
1984年大阪生まれ。評論家、近現代史研究者。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、インタビューなどを幅広く手がけている。
著書に『日本の軍歌』(2014年)、『たのしいプロパガンダ』(2015年)、『空気の検閲』(2018年)、『古関裕而の昭和史』(2020年)、共著に『教養としての歴史問題』(2020年)など。

西田 亮介 (にしだ りょうすけ)
1983年京都生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学。
著書に『ネット選挙――解禁がもたらす日本社会の変容』(2013年)、『メディアと自民党』(2015年)、『情報武装する政治』(2018年)、『コロナ危機の社会学』(2020年)など。

本のもくじ

  • まえがき 辻田真佐憲
  • プロパガンダとはなにか 2018年4月11日
  • 「#自民党2019」をめぐって 2019年7月3日
  • 情報戦略、メディア、天皇 2019年10月28日
  • コロナ禍と市民社会 2020年4月27日
  • 安倍政権とはなんだったのか 2020年9月3日
  • あとがき 西田 亮介
  • 付録 国威抑揚年表 2018-2020

読んでみて

本書は東浩紀氏が主催するゲンロン・カフェで行われた論客二人による5回の対談を加筆修正して書籍したものだ。

タイトルが目について手にとったため、著者の名前や顔をメディアで見かけたことはあるものの、著書を読んだことはなく、基本的な思想やスタンスをよく知らない。

本書を読む限りでは、辻田氏は政府が政治広報に対して、『プロパガンダ』と呼び注視しているのに対し、西田氏はプロパガンダと呼ぶべきではないとし、マーケティングのようなものだとして容認しているようだ。

西田氏は現代のプロパガンダを楽観視しているようにも感じる。

2016年のアメリカ大統領線でコンサルタントをしたケンブリッジ・アナリティカのような事例もありますが、やや過大評価されすぎな印象です。現実的に考えれば、フェイスブックの技術力や浸透度で可能なのは、投票所に行くことを促すところまでで、どの候補を選ぶかまでをコントロールできるとは現状ではとても思えません。そのさきの操作となると、行われた形跡はいまのところ実証されておらず、ましてや投票結果を左右する規模でとなると、実現までもうすこし時間の余裕があるのではないでしょうか。

この部分に関しては認識が甘いと感じざるを得ない。
フェイスブックの技術力や浸透度が行動に変化をもたらすわけではなく、あくまでも情報による攻撃を行う対象を絞り込むためのデータベースに過ぎない。ケンブリッジ・アナリティカが行ったことは、人類というシステムのなかから脆弱性(セキュリティホール)となるターゲット(個人)を選び、そこにマイクロターゲティングの手法で洗脳を行うというハッキング的な手法で選挙結果を左右させた。
それはブルートフォースアタックのような全体に向けた攻撃ではなく、著者のようにセキュリティがしっかりしている人間はそもそも攻撃対象にすらならず、その攻撃が起きていることにすら気づけない。それがケンブリッジ・アナリティカの怖さなのだ。

つまり、西田氏が賢い人であるからこそ、彼のフィルターバブル外でおきている脅威が見えていないように思えるのだ。

ケンブリッジ・アナリティカをめぐる脅威に関しては下記の告発本を読めばより理解が深まると思うので興味がある人は読んでほしい。

国際的な情報戦争の裏側を暴いた世紀の告発本

タイトルが『新プロパガンダ論』であるがゆえに、そこにフォーカスした内容と思っていたが、どちらかというと対談をまとめた結果、最大公約数として『プロパガンダ』的なものが共通していた。という印象を受ける。
全体的に、論客がそれぞれのテーマについて語り合うという対談なので、こんなことがありましたがどう思いますか?わたしはこう思う。この部分については評価するし、この部分は問題だったと思う。というような感じで、部分的に面白くもあるし、退屈でもある。

二人の冷静な対談を読んで感じたそれぞれの印象は、大衆に迎合しない西田氏からはどこかニヒリズム的な要素があり、空気を読まずに思ったことを発言するタイプで、論客としてはそれだけで存在意義がありそう。一方、辻田氏はバランス感が優れている感じが伝わってきて、相手の主張を汲み取って自分の考察に活かす余白を持った人ということだ。

個人的に辻田氏の本については別のものを読んでみたいと思った。
ただ、この本自体が誰のためのもので、何の意義があったのかよくわからないまま読み終えてしまったというのも正直な感想である。

こんな人におすすめ!

  • ゲンロン回りに関心のある人
  • 論客の対談を読むのが好きな人