経済も次のフェーズに突入?世界経済の今とこれからを見通す

本の概要

富の源泉が、モノから知識やデータといった目に見えない無形資産へと変化している。
最先端の研究やビジネス、著名人の考えを引き合いに出しながら、世界経済の今を切り取ったのが本書である。

著者紹介

日本経済新聞社となっているが大学の教授やスタートアップのCEOなど様々な人物へのインタビューを交えている。

カリフォルニア大バークレー校、ブラッドフォード・デロング教授
マース・グローバル、サンポ・ヒエタネンCEO
インペリアル・カレッジ、ジョナサン・ハスケル教授
DBSグループホールディングス、ピユシュ・グプタCEO
ニューヨーク大、スコット・ギャロウェイ教授
ケンブリッジ大、ダイアン・コイル教授
スタンフォード大、ジェレミー・ベイレンソン教授
イーティゴ共同創業者、マイケル・クルーセルCEO
マサチューセッツ工科大メディアラボ、セザーヒダルゴ准教授
日本経済研究センター、岩田一政理事長
プリンストン大、清滝信宏教授
シンガポール知的財産事務局、マンダ・テイ氏
スタンフォード大、アルビン・ロス教授
スタンフォード大、小島武仁教授
オックスフォード大、ビリ・レードンビルダ准教授
ボストン大、ジェームズ・ベッセン教授
九州大、馬奈木俊介教授
プリゾメーター、ラン・コルバーCEO
データ&ソサエティ、アレックス・ローゼンブラット主任研究員
日立製作所、矢野和男フェロー
シンガポール国立大、スミット・アガルワル教授
東京大、渡辺努経済学部長
パランティア・テクノロジーズ共同創業者、ピーター・ティール氏
ジョージ・メイソン大、タイラー・コーエン教授
ノースウェスタン大、ロバート・ゴードン教授
日銀金融研究所、関根敏隆所長
OECD、キアラ・クリスクオロ氏
駒沢大、井上智洋准教授
APEC、エマニュエル・サンアンドレ氏

読んでみて

本書は世界経済の仕組みが変わってきていることがテーマなのだが、その結果、考え方や指標も時代にそぐわなくなっていると指摘している。そしてその最たるものがGDP(国内総生産)だ。

GDPという指標が機能しなくなってきている

情報アクセスの進化やコミュニケーションの向上といった分野はGDPという尺度では測りきることが出来ない。
Web上の無料サービスの普及によって日常は便利になり、生活の質は向上しているにも関わらず、実際にモノを作られず、売り買いも行われないため、GDPには反映されない。
例えば無料通信アプリのLINEなどは、利用料は無料であるにも関わらず、多くの人の生活の中で重要な役割を占めるだけでなく、多くの会員を持っているという無形の価値がある。

「GDPは豊かさではなく、モノの生産量の指標にすぎない。」

無形資産とは何か?

無形資産は大きく3つに分類される。

  • データやソフトウェアといった「情報化資産
  • R&Dや知的財産などの「革新的資産
  • 人材や組織の質といった「経済競争力

経済複雑性指標 (ECI)という指標

MITでは国ごとの輸出材の多様性と特異性から、モノを生み出すための能力の指標であるECIという指標をつくった。今後、GDPに変わる指標として根付くのかどうかは見守りたいところだが、すでにGDPで世界経済を正しく測れないことは自明のことである。

AIは人の仕事を奪うだけではなく、増やすこともある

AIに仕事を奪われるといった論調はここ数年よく聞くようになった。
しかし、AIによって仕事を変えたり、新たなスキルを身につける必要のある人が生まれる一方で、AIが新たな領域の仕事を創出するであろうことについてもきちんと認識しておくべきだろう。

さいごに

内容自体、特別尖った視点などはない。
日経が出している本だからこそ、そのネットワークを活用することで大学教授やスタートアップのCEOなど、著名人たちのビジネスや研究内容に触れ『移り変わりつつある世界経済』を記録し、今起きている事象を把握するためのキーワードを目次的に集約した1冊と言えるかもしれない。

本書で紹介されている企業はMaaS企業である『Whim』や、インドで90秒で銀行口座を開設できるようにした『DBSグループ・ホールディングス』、需給によって価格を変え利益を最大化するダイナミックプライシングを外食産業に導入した『イーティゴ』、世界中のセンサーや衛星情報などのデータから大気を可視化している『プリゾメーター』、そしてシリコン・バレーではおなじみのピーター・ティールによるビッグデータ分析会社『パランティア・テクノロジーズ』など、現在進行系で起きている新たな潮流のビジネスである。

全体的に広く浅い内容にはなっているが、気になった部分は読者が深堀りしていく必要があるだろう。

この本の賞味期限はおそらく3年程度だろう。
5年たったら古臭く感じ始めるだろうし、10年後に読んだら歴史の本になりかけてるかもしれない。もし少しでも興味があるなら早めに読むと良い本であることは間違いない。

こんな人におすすめ!

  • 世界経済の今とこれからを知りたい人