グラフィックデザイナーの考え方が身につく次世代のデザイン定番本

本の概要

「デザイン=楽しい」を実感できる!デザイナーのあたまの中を豊富なビジュアルでひも解く。

著者紹介

著者の筒井 美希さんは株式会社コンセントのアートディレクター、デザイナー。

読んでみて

デザイン関係の本はグラフィック、空間、ファッション、プロダクト、そしてそれぞれのデザイナーの作品集、デザインができるまでのドキュメンタリー、デザイン思想、ハウトゥー系など様々あり、それなり数の本を読んできた。

そして本書は大枠で分類するなら、グラフィックのハウトゥー本にあたる。

デザインには正解がない(もしくは正解だと思われるものにアプローチするのがデザイン)ため、考え方や取り組み方まで掘り下げないとどうしても物足りないものになってしまう。そしてそれを避けるために、この手の本はどうしても領域を限定した(色数や素材、使用用途など)狭い領域のテクニック集のような本になりがちである。

本書はその手の本とは一線を画す思想のある本であり、デザイナーが情熱と時間をかけないと生まれない本だ。

『編集×デザイン』、『デザイナーの7つ道具』、『デザインの素』の3章構成になっている。

編集×デザイン

イントロダクションとも言える最初の章。
読者に対して、これからするのは『アート』ではなく、『デザイン』なのだと宣言するかのように、デザインが見た目を構成するまでの考え方とステップを紹介している。

  1. 方向性を決める
  2. 骨格をつくる
  3. キャラを立たせる
  4. 足し算と引き算
  5. ブラッシュアップ

デザインという行為が感覚的に行うものではないことを、実例をもって示すことでその後の章に入りやすい。

デザイナーの7つ道具

2章では7つ道具としてデザインを組み立てていく中でのコツが紹介されている。

  1. ダイジ度天秤
  2. スポットライト
  3. 擬人化力
  4. 連想力
  5. 翻訳機
  6. 虫めがね

情報の優先度合い、どうやって目立たせるか、違和感のないトーンアンドマナー、アイデアの拡げ方、ビジュアル要素を用いた非言語化、ディテールへのこだわり、そして、情熱と受けてへの思いやり。

多くのデザイナーがいろんな経験を通して身につけていくピースを7つ道具として『型』のようにしたところが本書の真骨頂なのではないだろうか。

デザインの素

3章の『デザインの素』は他の本でもよくある内容だ。
この手の分野に興味のある人であれば目新しいことは書いていないだろう。

  • 文字と組み
  • 言葉と文章
  • 写真
  • グラフとチャート

他の本にも書いてあるような内容だとはいえ、魅せ方はわかりやすいし、全体としてデザインの基本と考え方が過不足なく網羅されている。この章があるからこそ、この本の完成度をあげている。

総評

デザインを学んだことがある人が、いろんなところで学び身につけてきたような知識やテクニックが網羅されていて、それがデザインによってわかりやすく紹介されている。センスのいい人ならこの1冊をしっかりとモノにすることで、かなりのデザイン力を得られるのではないか。
デザインを学び始めた時にこの本があったらどれだけ効率が良かったことか。

少し前までは『ノンデザイナーズ・デザインブック』という本がこの手の書籍で真っ先に紹介されることが多かったが、今後はこの本が定番になりそうだ。
デザインを仕事にしている・したい人を主な読者と想定している本だが、それ以外の読者にも役に立つだろう。
内容が古くなるような本でもないので、図書室にも置きたい本である。

手っ取り早く売れる本ではなく、長く読みつがれる定番の本を作った出版社とデザイナーを称賛したい。

こんな人におすすめ!

  • デザインを学びはじめた人
  • 自分の仕事を見直したい新人デザイナー
  • 資料などの表現の質をあげたい社会人