中国とは何か?高い壁の向こう側、赤い国のグレーな話

本の概要

めまぐるしい発展を遂げたものの、近年は覇権主義が加速し、米国との関係も怪しくなっている大国、中国。本書は理解しづらい中国人の精神構造や、共産党を頂点とする政治システムと腐敗、そして土地バブルにまつわる錬金術など、外からは見えづらい内部事情について紹介・分析されている。

著者紹介

著者は『幸せになれる黄金の羽根の拾い方』や『PT永遠の旅行者』など、節税や金融系の著書が多い橘玲氏。

読んでみて

ベールに包まれた国家の在り方、中国人の考え方、裏社会、共産党の構造、腐敗やバブル経済の起きる仕組みなどなど、今まで知らなかった中国が見えてくる。

行動原理としてのグワンシ

中国人の人間関係を考える値観としてグワンシを紹介しているが、日本人のそれとは大きく異なる。人間関係を「自己人」、「外人」に分けるという考え方だ。

中国人は外人を信用せず、すべてを内輪でやろうとしている、というわけではない。それとは逆に、彼らは日々の仕事や生活のなかで外人ともおおらかにつきあう。ただ、どれほど親しく見えても、最後は裏切る(裏切られる)ことが人間関係の前提にあるのだ。

中国とのビジネスで騙される日本人はお人好しだと言うのは簡単だが、そもそも人に対する向き合い方が根底から異なるのである。

中国に民主化は無理?

西欧のリベラルな社会は中国に民主化を求める傾向がある。
しかし、民主化することが必ずしも幸せな世界をつくることにはならないと著者は指摘する。

中国はあまりにも広大なため、自然状態では豪族や地方軍閥が各地に台頭し分裂してしまう。そこで歴代の中国王朝は、皇帝を頂点とする官僚システムを築き上げて全国を統治しようとした。

しかし地方の腐敗は凄まじく、農民が高い税金と土地の利用料で生活が苦しいため、農家を耕すことを放棄して、都会への出稼ぎが増えた。毛沢東は農民からの搾取を禁じたが、当の共産党員は農民から得たお金で贅沢な暮らしをしている。

共産党が独裁を続けるためには、党中央は地方政府の腐敗をこれ以上看過することができなくなっている。だが賄賂と「グワシン」によってがんじがらめになった地方政府の幹部たちに自浄作用を期待することはできず、検察や警察、規律検査委員までが土皇帝にとりこまれているとなると、あとは「人民による監視」によって腐敗とたたかう以外にない。矛盾するようだが、(共産党独裁を揺るがすような)民主化を弾圧しながら民主化を進めることが共産党の生命線なのだ。

中共は軍部をコントロールできていない?

インドと中国の国境、カシミール地方では領土問題があり、2014年9月と2013年5月に中国軍が越境した。どちらも習近平国家主席がインドで会談を行う数日前、首相がインドを訪問時というタイミングで起きていて、面子を潰されている。このことから共産党は地方の人民解放軍を統率できていないのではないかという見方もあるようだ。

南沙諸島での滑走路建設なども共産党中央の戦略というより、海軍が独断で既成事実を積み上げている可能性がある。

日本人はもっと中国について知るべきなのかもしれない

中国を理解することは難しい。
国が大きすぎるため、『中国人』という一つの認識で捉えることが不可能であると同時に、中共(中国共産党)という独裁政権が厳しい情報統制を行っているからだ。中国には数千年にもわたる古い歴史があるにも関わらず、現在の中華人民共和国が出来たのはたかだか60年前。そう考えると世界中にあるチャイナタウンや、日頃から親しんでいる中華料理も現在の中国に対する印象と大きく異なるのも無理はないだろう。

正当性を欠いた政党が、世界一の人口と広大な土地を持つ大国を、あらゆるジレンマと利害関係のなかで手探りで舵取りしている。これが本書を読んでアップデートされた中国という国家についてイメージだ。

世界のいたるところで起こしている衝突は国家運営の危うさの裏返しであるのかもしれない。

この本は、いかにして中国を理解するかというスタンスで書かれている。
最近の中共の暴走度合いを見ていると、日本人として中国に対する理解を深める必要性を感じる。そして、そんな中国をステレオタイプで語ってしまったり、色眼鏡で見ないためにも本書のような書籍はとても有用だと思うのだ。読み応えのある1冊だった。

こんな人におすすめ!

  • 中国に興味がある人
  • 共産党とその腐敗構造に対する理解を深めたい人