本当に大切なものは何か?大事なものを見失ないがちな大人達へ

本の概要

本書裏表紙より

町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります・・・・・・。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。

著者紹介

ミヒャエル・エンデ (1929-1995)はドイツ人の児童文学作家。
大島 かおり 訳

読んでみて

小説の感想を書くことに慣れていない。
最後に小説を読んだのがいつだったのか、思い出すのが難しいくらいには物語から遠ざかっていた。

小説を人に紹介する時は、一切の先入観を与えずに、受け手の感性に評価を委ねたい。
それがミステリーやサスペンスでなかったとしても、極力ネタバレすべきではないと思っている。しかし、「モモ」に関しては児童文学ということもあるのか、ネタばらしをしたところで、ただの冒険ファンタジーといった印象しか与えない気がする。
それはこの児童文学が単純かつ表面的な物語ではなく、ひとつ下の深いレイヤーにこそ真価があり、そこに現代社会へ警笛を鳴らしているかのような、様々なメッセージが込められているように感じるからだろう。

やさしい言葉で、ただのおとぎ話のようでありながら、しかしまっすぐに深層心理に問いかけてくる。これは『あなたの話』でもあるのだと。
だからこそ児童文学でありながら、多くの大人の心を揺さぶり、考えさせ、高く評価されているのだと思う。

以下、ネタバレではないが読後推奨

時間とは

寿命というものがあるとはいえ、人には等しく時間を与えられている。
その時間の中で、あるものは人より多く稼ぎ、あるものは無為に過ごしている。

家族のために、身を粉にして働く人もいれば、生活のために割り切って嫌な仕事をするものもあるだろう。
どのように過ごしていても時間は刻一刻と過ぎ去っていくという残酷な現実を僕たちは
忘れてしまったのだろうか、それとも気づかないふりをしているのだろうか。
限られた時間を自分の意志で本当に大切なことに使えているだろうか。

本当に大切なものとは何か

情報過多でせわしない現代社会では、僕たちはいとも簡単に大切なものを見失ってしまいがちだ。
大事な人を養うため、生活を豊かにするための手段であったはずの仕事が、いつのまにか目的化してしまい、大事な人をないがしろにしてしまったり、モノは溢れ生活は豊かになったが、代わりに心を失ってしまったり。

豊かさを追い求める資本主義経済を追求した結果、人を生産性だけで評価する傾向が強まり、時として人間関係を殺伐とさせたりもする。巨大資本によってコントロールされた欲望や常識、価値観などを疑うことなく信じ込み、翻弄されてしまったりする。

それは、個性を失った現代病とも言えるのかもしれない。

さいごに

3日ほど時間をかけて少しずつ読んだのだが、本を置くたびに様々な感情が芽生えた。

過去のことや未来のこと、そして今のこと。
自分は幸せなんだろうか、取り返しがつかない生き方をしていないだろうか、本当に大事なものを大事にできているだろうか。創造力を失っていないだろうか。忙しいを言い訳にして先延ばしにしていることはないだろうか。

正直いって児童文学にこれほどまでに自問自答させられることになるとは思わなかった。

読み終わったあとには、大事な人に連絡しようと思うかもしれないし、今の働き方を変えようと思うかもしれない。
すこし距離ができてしまった古い友人に連絡してみようと思うかもしれない。

自分の大切な時間を取り戻そう、手遅れになる前に。

こんな人におすすめ!

  • 仕事に忙殺され、自分を見失ってる気がする人