ビジネスの継続的成長のために一人の分析から始める実践マーケティング

本の概要

具体的かつ実践的なマーケティング本

著者紹介

西口 一希氏はスマートニュース執行役員マーケティング担当。
P&G、ロート製薬、ロクシタンを経て「スマートニュース」をアプリランキングで100位圏外からNo.1へ伸ばしたというマーケター。

読んでみて

本書の構成

第一章でマーケティングのアイデアとN1について、第二章が、顧客ピラミッドを使ったマーケティングの基本、第三章は、応用編としてより踏み込んだ9セグマップ分析、第四章がケーススタディとして、スマートニュースで行ったN1分析と、どのようにアイデアを創出したかについて。第五章ではデジタル時代における顧客分析の重要性について解説しています。

マーケティングにおけるアイデアとは何か?

マーケティング上でのアイデアとは『プロダクトアイデア』『コミュニケーションアイデア』がある。
プロダクトアイデアとは商品やサービスそのものであり、コミュニケーションアイデアとは商品やサービスを対象顧客に認知してもらうための手段だ。

プロダクトアイデア

プロダクトアイデアには『独自性』と『便益』がある。
他にはない唯一無二の個性があり、必要だと思わせるようなメリットがあるということだ。

コミュニケーションアイデア

『プロダクトアイデア』を対象顧客に伝え、購買行動を起こしてもらうコミュニケーション自体のアイデア。

著者はマーケターの役割を下記のように述べている。

最も重要な、便益と独自性を維持するために、「プロダクトアイデア」をアップグレードしながら「コミュニケーションアイデア」でコモディティ化を避け、いかに追随商品やサービスに対する「プロダクトアイデア」を強化していくか

顧客ピラミッドを用いたマーケティング戦略

著者の提唱している顧客起点マーケティングの手法をおおまかにまとめると下記のような手順になる。

  1. ビジネスの対象となる顧客を分解する(顧客ピラミッド)
  2. 顧客セグメントから一人の顧客を抽出して分析(N1)
  3. N1分析を元に、各セグメント顧客の行動と心理を変える「アイデア」を考案
  4. アイデアをコンセプトにし、定量的調査で検証して投資する

顧客ピラミッド

マーケティングの対象を顧客ピラミッドで分類するために、3つの設問による簡単な調査を行う。

  1. そのブランドを知っているかどうか
  2. これまでに買ったことがあるか
  3. どれくらいの頻度で購買しているか

売上は顧客ピラミッドにおける上位2つ、ロイヤル顧客と一般顧客が占めている。逆に下の3層は売上への貢献がなく、ロイヤル顧客と一般顧客からの売上でまかなっている。

顧客は層を移動するだけでなく、競合商品や代替品への移動もあるため、新規顧客の獲得と既存顧客のロイヤル顧客化の両立を実現する必要がある。5つのセグメントごとに費用と営業利益を出した上で投資対象が適切がどうか検証する必要があり、離反顧客をどうするか、認知してるが未購買の顧客をどうするか、未認知顧客の認知をどうあげるかといった中長期の視点が欠かせない。

行動データと心理データ

詳細な顧客分析に欠かせないのが行動データと心理データである。
顧客ピラミッドのこれらのデータを付加することでセグメント間のギャップがどこで生じているかを分析し、顧客セグメント固有の課題や機会の仮設を見出す。

行動データ

POSや会員カード情報、外部データベース、メールの開封率や、返信率、アクセス情報、ソーシャルログ、ECサイトの購買情報など顧客の行動を把握し、最適なタイミングで最適なマーケティング提案を行うことで売上や利益に貢献する。

心理データ

顧客の頭の中にある認知やイメージ、態度などの心理状態。
量的調査でデータ分析を行う。

  1. ブランドの認知
  2. ブランド選好度
  3. 属性イメージ
  4. メディア接触
  5. 広告の認知経路

心理データには無意識下の深層心理など抽出できない部分があり、量的調査には限界があるため、顧客一人ひとりの『N1分析』を行うことが重要になる。

N1分析

顧客を顧客ピラミッドにセグメントに分類し、売上と人数を可視化し、行動と心理のギャップを分析し仮説を立てたら、セグメントごとに具体的な顧客に焦点を当てた『N1分析』を行う。

架空の想定顧客ではなく、実際にそれぞれのセグメントに属している顧客個人のデータを元に、いつどのようなきっかけで、ブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル顧客化したのか。などを探っていく。

この分析の重要なところは、従来のマーケティングで設定されるような架空のペルソナ設定ではなく、あくまで実在する個人を分析するという点にある。
そして10人にインタビューを行って平均値を探るのではなく、セグメントが把握した1人の分析を10つ行う。

販売促進とブランディングを両立するための9セグマップ

ブランディングは戦略立案や効果検証が曖昧になりがちのため、応用編としてブランド選好の軸を加えたのが9セグマップ。
9セグマップは時間も手間もかかるので、まずは顧客ピラミッドの活用し、時間やコストを十分にかけられるのであれば最初から9セグマップを導入することを薦めている。

スマートニュースで行った行われたこと

第4章では著者がスマートニュースで行ったマーケティング活動を順序だてて説明している。
これまで触れてきたマーケティング手法を『スマートニュース』という実際のプロダクトを成長させるうえで行われた具体的な事例をもとに紹介しているのでより高い解像度で頭に入ってくる。競合を分析して新機能を追加した背景や、テレビCMを選んだ理由などだ。

おわりに

近年のデジタルマーケティングの発達により、多様なターゲット層へコストを抑えてアプローチができる手法など選択肢はどんどん増えている。一方で、インフラの整備やスマホの普及などの背景もあり、20年ほど前まで当たり前とされていたマスへのアプローチという手法は効果を失いつつある。

DX(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが注目されるが、時代の変化に対応できず、いたずらに広告費を費やしている企業は少なくないだろう。広告業界も、ものすごいスピードでゲームのルールが変わりつつあるのだ。

そういう意味では会社を成長させてみせるといった気概のある若い人ほど、この本を活かせるかもしれない。

こんな人におすすめ!

  • 自社の製品やサービスのマーケティングで何をしてよいか模索している人
  • 戦略の幅を拡げたい現役マーケター