マネタイズ視点でビジネスモデルを捉え直し、新しい発想を得よう

本の概要

先進的な8つの企業のビジネスモデルにおける価値提案とマネタイズを分析している本。

著者紹介

川上 昌直は兵庫県立大学経営学部教授、ビジネス・ブレークスルー大学客員教授。

読んでみて

顧客を満足させながら、企業が利益を得るために、どのようなマネタイズ戦略を取っているのか。
テスラ、ピーターパン、LDK、ネットフリックス、デアゴスティーニ、アドビシステムズ、マーベル、42といった企業のマネタイズ手法と従来のビジネスモデルとどのように異なるのかについて解説した本である。

テスラ

テスラは車をPCのようにアップデートできるようにした。
富裕層に高い価格で販売した利益で次のモデルを開発する。
さらに不動産のように空き時間に車をシェアすることによってお金を稼ぐモデルも計画している。

「電気自動車をもとに展開される自動運転などテクノロジーの進化に伴って、購入後にアップデートする車」という尖った価値提案をしている。

ピーターパン

千葉を中心に展開するコミュニティ型のパン屋。
お店をコミュニティ化し、心地よい空間でコーヒーを無料化し、さらに焼きたてのパンを提供した結果、家族連れから圧倒的に支持されるパン屋としての地位を築く。

「地域コミュニティを生み出す」という価値提案を行っている

LDK

モノクロや家電批評を出版しているLDK。
彼らは商品のレビューを行う際に公平をきすため、広告主の出稿によって支えられている従来の雑誌のビジネスモデルからの脱却を行った。広告料が減った部分はコンテンツを再利用可能で、利益率の高くなるムック本を出すことで補っている。

「本当に消費者に信頼される情報を提供する」という価値提案を研ぎ澄ませる

Netflix

見放題、延滞料なしの宅配DVDというビジネスから始まったネットフリックスは2007年にはネット配信を開始する。テレビのリモコンの制作費の10%を負担することで、リモコンにネットフリックスのボタンを配置することに成功するなどして順調に会員数を増やす中で追随する強豪との差別化のためにオリジナルコンテンツを作り始める。
スポンサーではなく、ユーザーの趣味趣向とニーズに寄り添った結果、競争力があり魅力的な質の高いコンテンツを量産することに成功し、動画配信サービスのトップの地位を確固たるものにした。

デアゴスティーニ

パートワークという分割課金モデルは顧客にとって購入時の負担を減らし、途中で飽きてしまうかもしれないという精神的な負担も軽減している。また、一括購入では販売しづらいスケール感のものを取り扱うこともできる。
模型屋ではなく、書店という流通経路を選択できるのもパートワークの強みである。

アドビシステムズ

従来のプロダクト販売からサブスクリプション型へと切り替える破壊的イノベーションを自ら行った。

マーベル

出版、玩具、ライセンスの3つの事業セグメントを再構築。映画製作会社にライセンスを貸し出すことで収益をあげるだけでなく、キャラクターのブランド価値も高め、玩具の売上も伸ばした。

42(Forty Two)

フランス発の無料プログラミングスクール。
社会課題解決を優先するため、マネタイズの可能性がありながらもマネタイズをしていない。
今後どのような展開が行われていくのかという意味で興味深い。

「人生を充実して生きるための教育機会を、誰にでも与えてあげたい」という価値提案をしている。

さいごに

近年、テレビがつまらなくなっている。
これはスポンサーからの広告収入をもとに番組が制作されているからであり、スポンサーに配慮した結果、高齢者にも受けやすいクイズ番組を始めとしたエッジの効いていない、質の低い番組が増えている。

その一方で、Youtubeやネットフリックスなどを始めとしたテレビ以外の映像コンテンツは充実し、なかでもここ2年ほどで芸能人のYoutubeへの参入が相次ぐなど、テレビ離れが着実に進んでいる。

スポンサー、電通、テレビ局が作り上げてきたこのビジネスモデルは近い将来成り立たなくなるだろう。
強大な力を持っていた旧来のメディアの牙城が崩れ始めている。

様々な業界でビジネスモデルの見直しが迫られており、その時に欠かせないのがいかにしてマネタイズするかという点である。
本書のようにマネタイズという視点から企業を分析する本はありそうでなかったため、その存在意義は高く評価したい。

顧客に価値提案をしながらも、どのように利益を獲得するのかを決定するのがマネタイズの本質であり、マネタイズは価値提案を経済的に顧客に納得してもらうための方法論なのである。

話題になっているビジネスがあればどこでマネタイズをしているのか考えるようにしているのだが、巷にあふれる従来のビジネスでも、課金するポイント(対象や時間軸)を変えることで、ひょっとしたら新しいものが生まれる余地はあるのかもしれない。

こんな人におすすめ!

  • 紹介されている企業に興味がある人
  • 経営戦略やマーケティングに携わっている人