歓喜と恐怖が入り交じるスタートアップのトラブルシューティング本

本の概要

起業家が向き合わなければならないあらゆる困難(ハードシングス)に立ち向かう知恵と勇気が詰まった、シリコン・バレーの投資家による本。

原題は『The hard thing about hard things』

著者紹介

著者のベン・ホロウィッツはシリコン・バレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラル・パートナー。
ネットスケープに入社し、それからオプスウェアの共同創業者兼CEOとして2007年にHP(ヒューレット・パッカード)に16億ドル超で売却。
その後立ち上げたベンチャーキャピタル『アンドリーセン・ホロウィッツ』は、スカイプ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ギットハブ、ピンタレスト、エアビーアンドビーなどに投資をしてシリコン・バレーを代表するベンチャーキャタルとなる。

読んでみて

経営者であれば味わうことになるであろう、ありとあらゆるトラブル。
この本はよくある起業家の成功本とは異なる。

これまで体験した様々な苦難をどう乗り切ったか、大事にすべき考え方が書かれていて、そしてそれを後輩の起業家の参考に届けるようなスタンスで書かれている、いわば会社経営のトラブルシューティングともいえる本だ。

自分は会社を経営したことはなく、15人程度のマネジメント経験しかないが、それでも、働いている人間の扱いや評価の仕方、仕事の効率化や組織論など、こういうことあるよなぁという部分があった。

構成

イントロダクションから第3章までは回顧録のような形で、過去の出来事が綴られている。
第4章から第8章までが、会社を経営していて起こるべきトラブルや、対処法、自身の考えなど、おそらく会社の経営者には最も参考になることが書かれている。
第9章では、ベンチャーキャピタルを立ち上げるに至った思いや経緯について書かれている。

製品戦略に関して

正しい製品を見極めるのはイノベーターの仕事であり、顧客のすることではない。顧客にわかるのは、自分が現行製品の経験に基づいて欲しいと思っている機能だけだ。イノベーターは可能なことはすべて取り入れられるが、顧客が真実だと信じていることを無視しなければならないことも多い。

これはフォードが自動車を発明した時のことを考えればわかる。当時の顧客が求めていたのはより早く移動できる馬車だっただろうし、顧客に車なんてものは考えつかなかっただろうからだ。
スティーブ・ジョブズもどこかで同じようなことを言っていた気がする。

「やっていないことは何か?」を聞く

時としてやってないことこそ、本来集中すべきことである場合があるからという理由で、ある時から週間ミーティングに「われわれが、今やっていないことは何か?」という項目を追加したそうだ。
そしてその結果、やるべきことが見つかり、自社開発よりも買収するほうが有利だという結論にいり、レンディション・ネットワークスという会社を買収している。

確率を考えてはいけない

著者はスタートアップのCEOは確率を考えてはいけないという。

会社の運営は、答えがあると信じなきゃいけない。答えが見つかる確率を考えてはいけない。とにかく見つけるしかない。可能性が10に9つであろうと、1000にひとつであろうと、する仕事は変わらない。

CEOが直面する困難

CEOを退いてベンチャーキャピタリストとなったことで、心の平穏を得た著書が最後にこう書いている。

思ったことを言うのを妨げるこうした恐れと気兼ねこそ、会社を経営する上でもっとも困難な部分の鍵を握っている。会社経営の本当の困難は、簡単な答え処方箋が存在しない部分にある。本当の困難は論理と感情が矛盾するところにある。本当の困難はどうしても答えが見つからず、しかも自分の弱みを見せずには助けを求められないところにある。

自分がCEOとして数々の苦難を乗り越えてきたからこそ、CEOの苦しみや必要としているものがわかる。
IT関連やスタートアップの会社を経営している人起業したいと思っている人は読んで損はしないだろう。

こんな人におすすめ!

  • 起業家を志している人
  • シリコン・バレーの起業家やエコシステムに興味のある人