本の概要
世界29言語に訳され、抵抗運動の渦中で人々に教科書として読まれた独裁政権打倒のロードマップ。
著者紹介
ジーン・シャープはアメリカの非暴力闘争研究科。
1983年にアインシュタイン研究所を創設し、自ら上級研究員として在籍。
読んでみて
独裁体制を最も効果的に、最小の代償で倒すことを望むなら4つの任務に取り組む必要があるという。
- 抑圧された民衆自身の意思や自信、抵抗技能を強化すること
- 抑圧された民衆が関わる独立した社会グループや機関を強化すること
- 国内で強力な抵抗勢力を築くこと
- 開放のための全体戦略計画を練り、それをうまく実行すること
そして、民主化のために『暴力』と『交渉』は機能しないという。
暴力的手段は機能しない
怒りに満ちた犠牲者たちが組織化し、暴力的な手段によって独裁者に立ち向かおうとすることがあるが、独裁政権はより強固な暴力的手段を持っているため、抑圧者がほぼ常に優勢である闘いを挑んでしまったということになる。
さらに軍事的反乱が非現実であると悟るとゲリラ戦に走りがちだが、これも推奨されない。
交渉の限界
交渉は特定の場面によって有効であり、軽視されるものではないが、宗教的原理、人間の自由、未来永劫における社会発展といった根源的な問題が争点になる場合、交渉によって相互に満足できる解決策をもたらすことはない。つまり、強靭な独裁政権を追放する手段として現実的ではないという。
民主化勢力は味方の破壊や犠牲に耐えられなくなったとき、交渉の誘惑に駆られるが、交渉のプロセスの中には独裁者が意図的に仕掛けた罠が潜んでいることに注意しなくてはならない。なぜなら「交渉」は双方が平等だという前提で、対決を生んだ互いの相違点を解決しようとするものではないからである。
- 最終合意の中身は相互の意見や目的を照らし合わせた上での公正さではない
- 交渉で得られる合意は、両サイドの力関係に大きく影響を受ける
政治的闘争こそが唯一の選択である
『暴力的手段』と『交渉』が独裁政権を打ち倒す際に機能しないという前提に経った上で、『政治的抵抗』、『非暴力闘争』こそが自由のために闘う人々に与えられた最強の手段である。というのがこの本の主張であり、強力で自助的な勢力が賢明な戦略を手に、修練された勇敢な行動を起こし、純粋な力を持って向き合えば、独裁体制はいずれ崩壊するのだという。
198の行動アイデア
巻末には非暴力行動198の方法が収録されている。
198といっても、立場や環境ごとに取れる行動が記されているため、重複していたり、似通ったものも多い。
たとえばそれはボイコットやストライキといった非協力なものであったり、宣言や嘆願など意見を表明するもの、チラシやポスターなど影響力を拡大していくためのもの、皆でなんらかの象徴的な行動を行うといった類のものなどである。
最初は具体性に欠けるような気もしたが、考えてみれば無理もない。
ベラルーシのように市民が抗議運動をできる余地のある国家、北朝鮮のように生き延びるのが精一杯の国家、そして豊かさを享受しながらも、弾圧や迫害がリアルタイムで起きつつも、厳しい監視下に置かれている中国など、国によって置かれた状況は異なり、これをやれば独裁者を必ず倒せるといった銀の弾丸は存在しないのだ。
だからこそ、民主化運動に参加するすべての人たちの行動原理とベクトルを揃えそれぞれの立場でできることのアイデアをまとめているのだろう。
この本は中国で手に入るのだろうか?。
香港やウイグル、チベットの人達はこの本の存在を知っているのだろうか?
- 民主主義の取り戻し方を考えたい人