『持続可能な福祉社会』モデル実現のために僕たちは何をすべきか?

本の概要

世界に先駆けて超高齢化社会に突入する日本。この本は高齢化で人口が減少していくなかでの、国家のグランドデザインについて提言している本だ。

著者紹介

広井 良典は京都大学こころの未来研究センター教授。

読んでみて

この本のテーマはイントロダクションで書かれているのでそのまま引用させてもらおう。

現在の日本社会が様々な面で持続可能性をめぐる危機に直面していることは確かであり、「2050年、日本は持続可能か?」という問いを正面から設定し、従来よりもひと回り大きな視野に立って、かつ分野横断的な視点から、日本社会の未来とその構想、選択について議論を行っていくことがいま求められている。

そして必ず来る高齢化社会を始めとした日本の課題について洗い出し、その解決策と方針を提言しているのだ。

本書の構成

第1章で人口減少社会について日本と世界で起きていること。第2章では、地域を活性化するうえで欠かせないコミュニテイとまちづくり・地域再生について。第3章では人口減少や成長発展などの歴史的な背景からの考察。第4章で社会保障と資本主義について。第5章では高齢化が進む中で無視できない医療について。第6章は医療の先にある死生観。第7章で結びとなる持続可能な福祉社会というテーマを扱っている。

気になった部分だけ言及していきたい。

地域のまちづくり

第2章で、車社会のまちづくりが郊外の幹線道路沿いの大型店舗やショッピングモールなどを増やした結果として商店街が廃れ、都市中心部の空洞化が進んだことについて言及されている。そのために、都市の中心地をヨーロッパの街のように歩けるようにするなどして、地域のコミュニティ空間を作るのが大事だというのが大筋の主張だ。

以前、読んだ『ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる』という本にも書かれていたのだが、世界一住みたいと言われるアメリカの都市ポートランドは、かつて全米の都市が車社会型の都市政策を行っていた時に、逆行するように高速道路をなくし、町並みを断絶するような駐車場の建設に対して制限を設け、歩いて楽しめる街づくりを行ったそうだ。
州と市と行政、市民が一体となってまちづくりに取り組んだ結果として、徒歩圏内で楽しめる魅力的なまちづくりに成功し、今では世界一住みたい都市として有名なだけでなく、ナイキやダナー、ポーラー、コロンビアなど数々の世界的ブランド企業を数多く生み出している街でもある。

区画整備や景観に関する条例など、結果を伴った具体策や取り組みの歴史ものっているので、まちづくりに関してはそちらのほうが参考になるかもしれない。

社会保障について

日本の社会保障の大半は年金、介護、高齢者医療などの高齢者関係給付が約7割を占めているそうだ。

しかし、近年では生活保護を受ける若年層が増えているそうで、貧困までいかなくても非正規雇用などの生活が不安定な若年層が増えている。そしてそのことが晩婚・未婚化に影響を与えている。そのため、人生の早い段階での社会保障を行う必要性について提言している。

また、著者は各国の社会福祉制度を比較したうえで、「高福祉・高負担」でも「低福祉・低負担」でもなく、なし崩し的に「中福祉・低負担」という選択をしてきたことに対し、下記のように指摘している。

困難な意思決定を先送りして、”その場にいない”将来世代に負担を強いるという点で、もっとも無責任な対応と言うべきだろう。

ちなみに著者はツケを残さないことを重要視しており、社会保障を持続可能な形で行っていく上での財源は消費税、相続税、環境税で賄うとしている。

おわりに

どちらかというと学術系の内容のため、普段からこのような本を読まなかったり、社会的な関心を持っていないと退屈かもしれない。しかし、現役世代が今、この問題に真剣に取り組まないと、近い将来、自分たちの首を締めることになるのは間違いない。

社会保障の点を考えるとどうしてもバブル経済の恩恵を最大限享受してきた今の50代以上の世代が、未来に備えてこなかったツケを、就職氷河期やリーマンショックを経験している40代以下の世代に負わせているような気がして仕方がない。
悪意があったのではなく、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われ、浮かれていたことや、非正規雇用を増やすなどして格差を生み出したことで、晩婚化が進み、出生率が下がるなんてことには想像力が働かなかったのだろう。政治や行政に責任があると思われるが、そうはいっても酷すぎる。これじゃあ世代間による搾取じゃないか。

できることなら歴代総理をもれなくシバきたいところだが、来たるべく現実に対して僕たちは何ができるだろうか。各々が考え、できることから行動するしかない。
個人的には晩婚化解消や出生率を上げるために、人生前半の社会保障は手厚くしたほうが良いと思う。

最期に、この本にかかれている10つの提言を簡単にまとめておく。

  1. 将来世代への借金のツケ回しを早急に解消すべき
  2. 若い世代への支援の強化が何より重要
  3. 『多極集中』という方向を実現
  4. 都市と農村は都市が有利な構造になっているため、再分配システムを導入する
  5. 企業行動、経営理念を「拡大・成長」から「持続可能性」にシフトしていく
  6. 「ポスト情報化」の分散型社会システムを構想する時期
  7. 高齢化と人口の定常化が地球規模で進行する時代のフロントランナーとして『グローバル定常型社会』という社会像を率先して発信していく
  8. 「持続可能な福祉社会」を志向しつつ、ナショナル、グローバルへと再分配や規制等を積み重ねていく社会モデルを実現する
  9. 「福祉社会」の再構築と、「個人」、「地球倫理」といった理念の深化を図る
  10. 拡大・成長から成熟・定常化の移行期には大きな精神的・文化的革新が生じており、「地球倫理」はそうした画期に呼応しうる理念として深化していく必要がある

若い人たちが地域起こしや、地元を盛り上げたいという声はよく聞くが、そういう意思を持った人達が地域の活動に取り組む前提認識として、俯瞰的な視点を持っておくために読んでおくと良いかもしれない。ただし、具体策には乏しいので何をするのかは各々が考えるべきだろう。

40代以下の人達はこれらの課題に対する政策の成否の影響を最も受けることになるため、決して他人事ではないということは改めて指摘しておきたい。
残された時間はそれほど多くない。自分の一票を投じる人間がこれらの視点を持っているかどうかを見極める必要もありそうだ。