今の『日本』に命を賭ける価値があるか?特殊部隊を立ち上げた男の問い

本の概要

新安保法制が施行され、「自衛隊員の戦死」が現実味を帯びてきた。しかし、今の日本という国家に、「死ね」と命じる資格はあるのだろうか。自衛隊でも、もっとも死ぬ確率が高い特殊部隊の創設者が、自分の経験をもとに「国のために死ぬ」ことを、とことん突き詰めて考えた衝撃の手記!

著者紹介

伊藤 祐靖
1964年東京都出身、茨城県育ち。日本体育大学から海上自衛隊へ。防衛大学校指導教官、「たちかぜ」砲術長を経て、「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件を体験。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わる。42歳の時、2等海佐で退官。以後、ミンダナオ島に拠点を移し、日本を含む各国警察、軍隊に指導を行う。現在は日本の警備会社等のアドバイザーを務めるかたわら、私塾を開いて、現役自衛官らに自らの知識、技術、経験を伝えている

読んでみて

ウェブの記事で著者の文章を読んだことがきっかけで手にとった小説『邦人奪還』には、自衛隊の置かれた状況や、自衛隊員の抱える葛藤と特殊部隊についてとてもリアルに書かれていた。自分は愛国心を軽々しく口にする人や押し付けるネトウヨの類や、軍事オタクはどちらかというと苦手な部類に入るのだが、この小説は読んでいてとても考えさせられた。

リアルな描写で自衛隊特殊部隊と日本を描くフィクション小説

ネトウヨや軍事オタクが苦手と言っても、国のために命を賭ける覚悟を持ち、災害などの復旧作業などに活動に従事している自衛隊の方々には強くリスペクトしている。そしてそんな自衛隊の中でも最も危険な立場になりうる特殊部隊の創設に関わった著者の人となりに興味が湧いたため、読んでみることにした。タイトルだけだったら普段は絶対に読まない本だろう。

小説の書かれた背景

本書は著者の少し変わった生い立ちから、自衛隊に入隊してからのこと、特殊部隊を立ち上げることになった背景、そして自衛隊を辞めたあとのフィリピン、ミンダナオ島での生活。この本を読んだことで、なぜ『邦人奪還』が書かれたのか、書く必要があったのかがわかった気がした。

過去の歴史から、軍部の暴走に対して懸念する人は多いし、それ自体は民主主義の平和国家として健全なことでもあると思う。その一方で、自衛隊に対する認識や法整備などは、長いこと先送りにしてきた問題が少なくない。

覇権主義の色がより強くなっている中国共産党や、ミサイルを打ち続ける北朝鮮などの動きをみていると、国防について考え直す時期に来ていることは紛れもない事実であるし、自衛隊の方々が迷うことなく活動できる土台を整備する必要はあると感じた。

さいごに

著者の言葉には愛国心と、やりきれなさのようなものを感じる。それは『何のために命を賭けているのか』を考え続けてきたからであるし、ネトウヨなどが軽々しく口にする愛国心とは一線を画す。

自衛隊を辞してなお自己鍛錬に終始している生活をしていることを考えると、この人は立場に関係なく有事の際にはきっとどこにいても駆けつけるのだろう。

こんな人におすすめ!

  • 今の国のあり方に疑問を持っている人
  • 著者のひととなりに興味がある人