変わりゆくアメリカでSFの巨匠は晩年なにを思ったのか

本の概要

『タイタンの妖女』などの名作を生み出したSFの巨匠カート・ヴォネガット。
本書は晩年、ニューヨークで過ごした彼によるユーモアや皮肉がつまったエッセイ集である。

原題は『A Man Without A Country』

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著者紹介

カート・ヴォネガット (1922.11.11-2007.4.11)
インディアナ州都インディアナポリス生まれ。

読んでみて

実はカート・ヴォネガットの作品は『タイタンの妖女』しか読んだことがない。
昔、爆笑問題の大田光さんが何かの番組で大絶賛していたことがきっかけとなり手にとった。

壮大なスケール感で描かれるSF小説なのだが、当時の自分からするとSFとは『スター・ウォーズ』であり、『ターミネーター』であり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だった。
そんな状態で、わけのわからない展開を繰り広げるコアなSF小説に出会い、こんな分野があるのかと驚いたものだ。

熱心なSFファンというわけでもなく、その後はSF小説を読むことはほとんどなかったのだが、自分の価値観を拡げた小説家としてカート・ヴォネガットという存在はずっと頭の片隅に残っていた。

そしてそんな彼のエッセイの存在を知ったとき、純粋に読んでみたいと思った。

友人とのエピソードなど日常の出来事や昔の思い出、社会問題や政治、戦争、かたや下ネタなどなど、様々なトピックに彼の皮肉のこもったユーモアが添えられている。
中には翻訳するのが大変だったんじゃないかと察してしまうような小説家特有のまどろっこしい表現もある。しかし、退屈に感じたり飽きてしまうどころか、クセになってくる。何ページかごとに掲載されているイラストの添えられた手書きの文字や文章を通して、なんとも人間味のある人だというのが伝わってくるのだ。

最終的には、知的だが、口が悪く、こだわりのある、なんだか憎めない愛すべき爺さん。という印象になった。

最後に一部引用を。

芸術家では食っていけない。だが、芸術というのは、多少なりとも生きていくのを楽にしてくれる、いかにも人間らしい手段だ。上手であれ下手であれ、芸術活動に関われば魂が成長する。シャワーを浴びながら歌をうたおう。ラジオに合わせて踊ろう。お話を語ろう。友人に宛てて詩を書こう。どんなに下手でもかまわない。ただ、できる限りよいものをと心がけること。信じられないほどの見返りが期待できる。なにしろ、何かを創造することになるのだから。

こうして自分も芸術家のはしくれにでもなった気になって、下手なブログを書いているのである。

こんな人におすすめ!

  • カート・ヴォネガットの人柄に興味がある人
  • 細切れ時間にちょっとした刺激がほしい人に